心理の密室。高木彬光『刺青殺人事件』は今なお色褪せぬ古典名作ミステリー

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『刺青殺人事件』は高木彬光さんによる名作ミステリ。「神津恭介シリーズ」の第1作目である。

今シリーズの探偵役・神津恭介(かみづきょうすけ)は、江戸川乱歩の「明智小五郎」、横溝正史の「金田一耕助」とならび《日本三大名探偵》と呼ばれる一人。

他の二人と比べて、一般的な知名度がちょっと低いのが悲しいね。

とはいえ、『刺青殺人事件』は間違いなく国内ミステリにおける古典名作であるので、ミステリ小説がお好きであればぜひ一度読むことをおすすめしたい。

『刺青殺人事件』のあらすじ

本郷の東大医学部標本室にはあらゆる刺青が保管されている。

今回の事件は、その中で一際目立つ「大蛇丸」の刺青について語られていく。

①主要人物の一人・松下研三は、「刺青競艶会」という刺青の会に行く。

②その会場で、素晴らしい大蛇丸の刺青を入れた野村絹枝という女性に出会う。

③彼女は「自分は殺されるかもしれない」と不安がっており、後日、絹枝から「おりいってお願いしたいことがある」と言われた研三は彼女の家を訪れる。

④しかし研三を待っていたのは胴体が持ち去られ、首と両手両足しかない絹枝の死体だった。

簡単にまとめるこんな感じである。

胴体のない死体!なんとゾクゾクする!が、面白いのはココだけではない。

純白のタイルで張られた浴室には、切断されてからまもないと思われる恨みを残した女の生首と、白くやわらかな二本の腕と、長くのびた二本の足とが、無残な切り口をみせて横たわっていた。水道の栓が開いて、水は一杯に浴槽を満たし、溢れて床を洗っていた。豊かな黒髪の一本一本は、からみあう無数の蛇のうねりのように見えた。

128ページより

必読の密室トリック

『刺青殺人事件』が名作と呼ばれ続けるには理由がある。

それが「密室トリック」だ。

扉の鍵は、横に引いて下へ落とす閂式のものだった。その横棒が下におり、頑強に扉を閉じていたのである。 窓も博士の推察どおり内からかたく閉ざされていた。蟻のはい出す隙間もない文字どおりの密室殺人事件であった。

129ページより

胴体のない絹枝の死体は、完全な密室状態の浴室で発見されたのである。この密室トリックを神津恭介が解決していくわけなのだが、これこそが最大の見所なのだ。

何が凄いのかというと、「物理密室トリック」と「心理密室トリック」の見事な掛け合わせ、である。完全な盲点を突いたこの「心理密室トリック」をぜひ刮目していただきたい。

そしてこの密室トリックがもうひとつの○○トリックに絡んでくるという、もうナンテコッタイ!って言ってしまうくらいのテクニック溢れる作品なのだ。

もちろん謎はそれだけに終わらない。

犯人はなぜ胴体を切り取ったのか?ということが不可解である。

もし、背中に描かれた刺青が欲しいだけならば、皮膚だけを剥げば良いのだ。

胴体を持ち去るのはそれだけで大きな荷物になるし、犯人にとってメリットがあるとは思えない。一体なぜ。

天才・神津恭介

今作の探偵役・神津恭介は天才である。

十九歳にして六国語を話すことができ、「神津の前に神津なく、神津ののちに神津なし」とも呼ばれるほどだ。

しかも、神津恭介が登場するのは全二十章のうち十五章にはいってからである。

そこからは彼の独壇場。あれほど難航していた事件をあれよあれよと解決していく。

「おそくともこれから一週間のうちには、事件を完全に解決し、君の兄さんに犯人を捕まえさせてあげるとも」

308ページより

さすが日本三大名探偵の一人である。

『刺青殺人事件』のポイント

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最後に今作の見所を見てみよう。

1.犯人は「なぜ」浴室を密室にしたのか

密室にする場合、基本的に「外部の犯行は不可能なため、被害者は自殺した」と思わせるためにする場合が多い。

しかし今回の場合、絹枝はどう見ても外部の人間に殺されている(胴体がなく、手足がバラバラなのだから)。

他殺は明らかであるのに、なぜわざわざ密室にしたのか。

2.どうやって密室にしたのか

先ほどでも述べたように、「物理トリック」と「心理トリック」の融合が見事である。特に心理密室トリックは必見だ。

3.なぜ、胴体を切り取ったのか。その行方は。

刺青が欲しいだけなら皮だけを剥げば良いのである。わざわざ重たい胴体を持っていく必要がない。

ぜひこの点に注目して読み進めていただきたい。